新シリーズ「グウェントのデザイン」へようこそ。定期的にお届けするこのコーナーでは、『グウェント』の根幹を成すコンセプトやデザイン哲学、その他の関連トピックに迫ります。今後取り上げてほしい内容があれば、皆さんのリクエストもぜひお寄せください!
ライター:ゲームプレイデザイナー Jean Auquier
「Homecoming」が『グウェント』にもたらした大きな変化の1つが、構築コストシステムです。ベータ版のプレイヤーであれば、ブロンズとゴールドに加えて第3の色、シルバーがあったことを覚えているのではないでしょうか? デッキにはゴールドを4枚まで、シルバーを6枚まで入れることができ、のこりは15枚以上のブロンズ(同名カードは1種類につき3枚まで)で構成されていました。
今回は構築コストに注目し、このシステムが『グウェント』に組み込まれた経緯や、ゲームに与えた影響について掘り下げます。
まず、構築コストシステムはベータ版『グウェント』に存在していた枠色の制限を進化させたものです。ここでいったん、このシステムがなぜ生まれたのかを説明しておきましょう。
競技的なカードゲームの多くには、カードを区分するシステムが組み込まれています。最も一般的なのは『マジック:ザ・ギャザリング』によって広まったマナシステムで、『ハースストーン』や『レジェンド・オブ・ルーンテラ』も同様のシステムを採用しています。他の例を挙げると、『遊戯王』では自分のユニットを犠牲にしてより強いユニットをプレイする複数の方式が用いられ、『ヴァイスシュヴァルツ』のレベルシステムでは、ある程度ゲームが進行してから(敗北が迫っている状態)でないと高レベルのカードが使えないようになっています。そして『グウェント』に話を戻すと、以前の枠色制限システムと現在の構築コストシステムは、どちらもデッキ構築の制限を通してカードの区分を行っています。
このようにカードを分けることで、1つのカードをすべてのカードと比較するのではなく、同じグループ内で比較するようにできるため、グループによってカードの平均的価値に幅を持たせられます。このグループを平均的価値によって順序づけたものを「パワーカーブ」と呼び、グループ間で価値がどのように変化していくかを視覚化できます。たとえばマナシステムの場合、カーブが急上昇するのが一般的です。これは高コストのカードほど柔軟性が大きく劣り、その代わりに極めて強力である傾向があるためです。
ではこのようなシステムを採用する理由はなんでしょうか? デザインの余地を増やすためです! 制限は創造性の源なのです。『グウェント』の場合、ゲームの根幹はオークションになぞらえることができます。両プレイヤーが同じ量のポイントを持って対戦を始めるとすると、目指すべきはポイント差を最小限に抑えてラウンドに勝利し、負ける時は最大限のポイント差で負けること、すなわち対戦相手にポイントを浪費させることになります。そうすることでより多くのポイントを保持したまま最終ラウンドに臨めるからです。ポイント値のさまざまなカードが存在することで、ターンベースであることも相まり、この目標はより複雑かつ奥深いものになります。
以上のことをふまえれば、枠色制限システムから構築コストシステムへの進化が説明しやすくなります。3グループ(ブロンズ、シルバー、ゴールド)から10以上のグループ(構築コスト4~13+)に細分化されたことで、デザインの余地は大きく広がりました。
しかしそこには代償も伴います。枠色制限システムはとっつきやすくシンプルでした。デッキ構築の制限が厳しいため、シナジーを意識しながらゴールド、シルバー、ブロンズのカードを選ぶだけでよかったのです。必要となる15枚のブロンズには1種類につき3枚の同名カードを含められたので、たった5種類のブロンズを選べばそれで済みます。デッキの調整も非常に簡単で、カードを追加したり取り除いたりしても、シナジーは別として、そのグループにしか影響を与えませんでした。
これに対し構築コストシステムでは「高域・中域カードを何枚入れるべきか」、「ブロンズの構築コストをどう散らすべきか」といった問題が発生してきます(他のゲームにおけるマナカーブや土地の配分に近いでしょう)。
さらに、デッキに手を加えようとすると、構築コストの制限をクリアしなければならないため他のカードすべてに直接的な影響が生じるかもしれません。しかしこれには良い面もあります。デッキ構築に縛りを設けることで、構築コストシステムが抱える問題に、おのずと答えが見えてきます。通常、デッキを構築する際は、まず自分が使いたいカードを選んだ後、構築コスト制限に達するようにコストの高いカードや低いカードを加え、最後にコストの微調整を行います。
ここで最小の(ゆえに最適な)デッキサイズが大きな役割を果たします。他のゲームにおける構築コストシステムは、多くの場合、含められる要素の数に厳しい制限がありません。高構築コストの要素を少数用いるか、構築コストを抑えて数を増やすかはプレイヤーの裁量次第です。構築コストの制限内で満たさなければならない枚数が明確に設定されているおかげで、『グウェント』のプレイヤーはこうしたジレンマを回避して構築コストの割り振りに集中することができます。
さて、基本の構築コストが150、リーダーが追加する値が平均15で25枚のカードをデッキに含めるとなると、カード1枚に割り当てられる平均構築コストはおよそ6.5となります。この平均値を下回るカードをデッキに組み込めば、その分だけ他のカードにコストを割けるようになり、逆もまた同様です。たとえば構築コスト4のカードを使用すれば2.5の余裕が生まれて構築コスト9のカードを1枚組み込めるようになり、他の数値の組み合わせも同じように考えられます。《お化け》のような構築コスト14のカードを使用するためには、構築コスト4のカードを3枚組み込んで帳尻を合わせなければなりません。
そこで関わってくるのが、構築コストシステムの最重要トピックである「両極化」です。カードの効果を無視すれば、『グウェント』の1試合ではデッキを構成する25枚のうちの16枚のカードしか使用されません。すべてのカードが平均構築コスト周辺だった場合、約60もの構築コストが活用されないことになります。デッキに高コストカードを組み込み、その結果として低コストカードも組み込む「両極化」を行うと、未使用になる構築コストが減ったり(低コストカードが残った場合)… 増えたりします! 構築コストが無駄になってしまうリスクは、デッキの両極化を推し進めるほど大きくなります(ゴールドを引けますように!)。これは特に新しい現象ではなく、同様のリスクは枠色システムの時点でも存在していました。しかし構築コストシステムでは、両極化の度合いをプレイヤーがコントロールできるようになっています。
デッキの両極化はリスクを伴いますが、このリスクはマリガンによって大幅に抑えられるため、試みる価値は充分にあります。これをふまえると、構築コスト4のカードはそれ自体をプレイするのが目的ではなく、より高価なカードを使うための「マリガン用の捨て駒」と言えるでしょう。
これは『グウェント』における構築コストシステムの限界の1つです。また、構築コスト4を下回るカードが(おそらくは)登場しないのもこれが理由です。「Homecoming」開発時には構築コスト0のカードについても検討しましたが、他のカードに割り振るための「フリー構築コスト」化し、マリガンで捨てられるだけの無価値な存在になっていました。
ブロンズの価値が年々増している背景にはこのような理由があります。シナジーに重きを置くことで、(構築コストで損をするとしても)ブロンズカードは試合中にプレイしても損をしない、むしろ積極的にプレイしたいカードとなるのです。
もう1つ興味深いのは、構築コスト4のカードはメインの勝ち筋に絡める必要がないため、特定の状況で効果を発揮する対策カードを組み込むのに最適という点です。その代表格が《リス》ですが、他の例としては「浄化」を持つカードなどがあり、その多くがパッチ9.4で構築コスト4に変更されています。
ここまでカードの効果に触れていませんでしたが、デッキを圧縮したりサーチしたりするカードを使うことで無駄となる構築コストをさらに削減できます… が、代償もあります。1構築コストが1ポイントに等しいと想像してみてください。試合終了時に対戦相手よりもデッキの残り枚数が少なかったとしたら、それはより多くの構築コストを使用できたということであり、より多くのポイントで戦ったことを意味します。
圧縮効果を持つカードがポイント面で高価になりがちなのはこれが理由です。デッキの安定性やポイントの高さといったアドバンテージは別にして、本来ならば使われなかったカードにアクセスしているという部分を評価しているのです。そのため圧縮カードの構築コストを評価する際は、圧縮カード自身とそれによって場に出たカードの合計値から4を引くように調整する必要があるのです。圧縮を行わなかった場合にデッキ内で未使用のままになったであろう最小の値が4だからです。シンプルな例として《禁衛旅団》を2枚プレイするケースを考えてみましょう。この場合、合計構築コストは10で合計戦力値は8です。ここから無駄になっていた構築コストを活用した分の4を差し引けば、このコンボによって構築コスト6あたり戦力値8を確保した計算となり(加えてデッキ圧縮による安定性という潜在的なメリットもあります)、見かけ上の構築コスト10で戦力値8よりもずっとリーズナブルと言えるでしょう。
面白いことに、「残響」カードについては逆の発想を適用できます。カードが戻ってくることでデッキの枚数が増えるため、より多くの構築コストが未使用のままになります。これはデメリットであるため、カードの値において考慮しなければなりません。適切に評価するためには、カードのコストに構築コスト4を足して考える必要があります。「残響」カードを2回プレイすることで使い損ねる構築コストの最小値が4だからです。
ネガティブな面ばかり述べてしまいましたが、実のところ私たちは両極化を望み、(ある程度までは)推奨しています。
両極化によって、試合ごとのポイントのばらつきが生まれますが、『グウェント』に最初から組み込まれている仕組みや、これまでに追加されてきた安定性を向上させる効果があれば、問題のない範囲に抑えられていると考えています。
何より重要なのは、両極化によって魅力的なゲームプレイが生まれることです! カード間の差が大きくなるほど、より複雑で奥深いオークションシステムを楽しめます。そこまでの必要がない場面で貴重なカードを使わなければならず、もったいない思いをした経験は誰にでもあるはずです。こういった無駄をなくすために、時には序盤のラウンドで強力なカードをマリガンするのが正しい選択となることさえあります。
構築コストの高いカードは、それを中心に戦略を構築する大きな目玉になります(「脚本」カードの影響力の大きさはまさにそれです!)。最近の拡張セットで高構築コスト(11以上)のカードが重視されているのは、それが理由の一部でもあります。
『グウェント』は構築コストの戦いである、と総括したい気持ちにも駆られますが、実際のところはそう単純ではありません。カード間のシナジー、対戦相手のシナジーの妨害、状況によって価値が大きく変わるカード(《コラスの熱波》など)はすべて、プレイヤーが価値を“生み出す”ためのツールです。中でも特に重要なのは、ラウンド間のポイントの振り分けをコントロールすることです。対戦相手にポイントで負けていたとしても、3ラウンド勝負では、勝機は常に残されているのです!
最後に、The CouncilのYouTubeチャンネルでご覧いただけるGorflowによる解説動画「The Rule of 16」(https://www.youtube.com/watch?v=2kCDey-pi34&ab_channel=TheCouncil)をおすすめします。この動画ではデッキ構築とプレイにおける両極化の重要性が語られています。